連載「プッツトイフェルのひとりごと」 |
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| by 鈴木 由紀子 |
| 第2回 たかが排水口、されど排水口 |
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ドイツの知り合いの家に泊まるとき、日本食を作ってと頼まれることがよくある。何度か場数をふんで慣れてきてからは、そういうときのために最低限だしの素(かつお節は煮出すときに生臭くてドイツ人が嫌う)、お弁当用の醤油のミニボトル、みそ、のり、菜ばし、巻きすを携帯するようにしているが、初めてのときはそんな準備もないのに気軽に引き受けてしまった。宿泊先である民宿の経営者のご夫婦と仲良くなり、近くのドイツ人を呼んでパーティをやろう、ということになったのだ。 しかし、田舎の農家民宿ゆえ、デパートも日本食品店もない。食材の仕入れを、ということで車で30分ほどのスーパーにつれていってもらったはいいが、さて、目の前にある材料でいったい何を作れるか、考え込んでしまった。日本食というと、すし、肉じゃが、すき焼きなどが思い浮かぶけれど、米はどれも細長いインディカ種。でもひとつだけ、丸っこい粒の米があった。"Milch Reice"(ミルヒライス)といい、ドイツ人が大好きな牛乳と砂糖で煮てジャムをのせて食べるミルヒライスというデザートを作るための米なのだ。とりあえずこれで米は確保できた。 が、もちろん新鮮な魚介などは置いていない。生鮮食品売り場はほとんど肉やソーセージで、魚は酢漬けのニシンくらい。のりだってあるわけないし、店員に聞こうにも相手がおそらく見たことも食べたこともないものを、私のつたないドイツ語で説明できようはずもなし、と早々にあきらめた。 肉売り場のケースをのぞいても肉じゃが用の薄切り肉はなく、一番薄いのでステーキ用の1cmくらいある切り身しかない。肉はそれでもいいけれど、だしがない。しょうゆもない。だしと和風のしょうゆが無い時点で肉じゃがの線も消えた。結局じゃがいも、にんじん、たまねぎ、肉とくれば、そう、カレーライスができるじゃない! ということでカレー粉とスープの素を買い求め、家路についた。 さて、民宿は小さな一軒家を丸ごと借りていたので、キッチンはついていたが、熱源はガスではなく電気。ドイツでほぼ100%普及している電磁調理器だった。普段ご飯を炊くにも炊飯器のスイッチを押すだけだったので、ただでさえ慣れない鍋炊きの上、火加減の調整がうまくできず、"初めチョロチョロ中パッパ"と炊き上げるのは至難の業。鍋肌はパリパリで真ん中へんは芯のあるご飯になってしまった。集まったドイツ人は、こんなもんだと思って結構おいしがって食べてくれてたけど、本心はどうだったのやら…。 |
![]() ▲うちでは汁気のある残り物等は先にカゴに流してから水気をきり、シンク脇のザルに移す。カゴの中に何も入れない状態にしてから水道の水を流して洗いものを始める。本当は食器洗い機もほしいところだけど、スペースの関係で考え中。 ![]() ▲これは洗面台の排水口だけど、ドイツのキッチンシンクの排水口はこんなもん。 ![]() ▲おまけ。コウタの寝姿。無防備すぎっ!? |
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前置きが長くなったが、今回のテーマは準備と後片付けについてなのだ。民宿の経営者の奥さんであるクリスタが準備を手伝ってくれたのだが、そこで私は気がついた。ドイツ人は野菜を洗わないで皮をむいたり切ったりする。もちろんサラダなど生食用の野菜は洗うが、じゃがいもの皮をむく前にまず習慣的に泥を洗い落としている私に、クリスタは「どうして皮をむいてしまうのに洗うの? 野菜の皮はぬらさないほうが腐らなくて臭いも出ないのに」と不思議そうに言うのだ。 ふと気がつくと、クリスタは新聞紙を敷いた上で野菜の皮をむき、むき終わったら新聞紙の上のものはコンポスト用バケツへ、新聞紙は玄関の前に置いてある古紙用の大きなゴミ箱に捨てた。私はといえば流しにつきっきりで、にんじんを切ったら包丁とまな板を洗い、たまねぎを切ったらまた洗い、とやけに水を使ってばかりいる。鍋をかき混ぜたスプーン、味見をした小皿も洗おうとすると、クリスタは全部食器洗い機に入れてしまう。あとでまとめて洗ったほうが水の節約になるからね、と。 シンクにある排水口もとても小さい。洗面台についているくらいの大きさだ。日本の自宅のシンクにセットされているような、直径も深さも15cmくらいあるような巨大なカゴではない。小さいからちょっと食べ物のかすや皮を流すとすぐつまる。だから、流さないのだ。確か昔住んでいた両親の家のシンクの排水口はこれくらい小さかったと思う。日本では時代とともに排水口が大きくなってきたのだ。大きいからいっぱい流してもつまらない。中にたまったものがあるのに、さらにどんどん水を流すから、いつまでたっても中の生ゴミは乾かない。ずっしり水を含んだままだ。だから生ゴミが増えるし、夏場は腐って臭うのだ。 小さな小さな排水口を見て、詰まるなら流すのをやめよう、というドイツ人と、どんどん流れるように大きくしてしまえ、という日本人の文化の違いをしみじみと感じてしまった。この排水口の違いが、同じように勤勉できれい好きな国民性であるにもかかわらず、ドイツはエコ先進国と言われて世界のお手本となっているのに、日本はいまだに使い捨て社会から抜け切れていない現状を端的に表しているような気がする。 | |
| 第1回 "掃除魔"はドイツ人女性へのほめ言葉 |
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| 先日東急ハンズの掃除用品売り場で「プッツトイフェル」という商品を見つけた。ドイツ製で、いかにも再生紙を使っています、という薄茶色の紙袋に入っていて、封もしていない。中には洗剤のいらない掃除用のクロスが入っていた。 Putz-Teufelプッツトイフェルというのはドイツ語の「putzen掃除する」と「Teufel悪魔」の2語からなる造語で"掃除魔"(あるいは"掃除の鬼"?)という意味。ソファでのんびり寝そべっている旦那さんに"邪魔よ"といわんばかりに部屋じゅうにパタパタはたきをかけて回っている奥さん、そんなイメージのある言葉だ。 以前ドイツに行ったとき、ある婦人サークルで日本のことを話す機会があった。話の前ふりに、「日本人は、ドイツ人女性はみんな"プッツトイフェル"で、家ではいつも椅子の脚を磨いていると思っています」と言うと大いに受けてしまった。 あとでドイツ人の友人が教えてくれたことによると、プッツトイフェルといわれることは恥ずかしいことではなく、むしろきれい好きであることのほめ言葉である、と。よくドイツ人は他人の家の窓が汚れているとわざわざその家の人に文句を言いに行く、と言われる。きれいであることは正しいこと、きれいにすることはほめられるべき行為、だから掃除のゆきとどいていないところを指摘するのは親切な行為、という認識になるのだろう。けっして"おせっかいね"なんて思ってはいけないのだ。 私も掃除が大好き。ドイツで友人宅にホームステイしていたとき、"私も日本のプッツトイフェルなの"といってせっせと掃除を手伝った。自分が掃除好きだと、他人の家のゴミ箱の中身から掃除に使っている道具、片付け方までいろいろ気になってくるものだ。 ここ10年ほどのあいだに旅行や取材でドイツを訪れたのは10数回。滞在したのは延べ1年にも満たないが、そんな中で垣間見たドイツ人の掃除やライフスタイルについて、これから書いてみたいと思う。よろしくおつきあいください。 |
▲マイ掃除道具。モップ糸の部分は古くなって捨ててしまったが、ぞうきんをはさんで使い続けているモップ。ぞうきん代わりの古タオル。そして、床に落ちた犬の毛をとるのに欠かせないフローリングワイパー。 |
![]() ▲こちら掃除魔の天敵、コウタ。毛が抜けなければもっとかわいいんだけど…。 |
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鈴木由紀子さんのプロフィール 千葉大学人文学部卒業。ドイツ文学専攻。雑誌、書籍のライターとして環境問題、食、有機農業などをテーマに取材、執筆活動を行うかたわら、有機認定機関のスタッフとして有機認証の世界にも身を置く。家族はコーギー犬1匹、娘一人、夫一人。 | |
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